平成24年度から平成29年度を目標に、国土交通省による建設業の社会保険への加入が勧められてきました。
社会保険加入割合は、製造業が約9割に対し、建設業は約6割と低く、若い世代を含め建設業に人材が集まらない原因とも考えられてきました。
また、社会保険の加入により保険料を負担する(給与のおよそ15%)ことになります。
そのため、違法に社会保険料を免れている会社は、入札参加等において保険料負担がない分だけ価格競争上有利な現状があります。
このようなことがないよう、公平で健全な競争環境の構築が必要であるという観点からも社会保険加入対策が進められることとなりました。
 

 
 

これまでの取り組み

1)行政による指導

・経営事項審査における減点幅の拡大
雇用保険、健康保険、厚生年金保険に未加入の場合の減点幅を拡大する

・許可更新時等の確認、指導
許可更新、経審、立ち入り検査時に保険加入状況を確認、指導する
立ち入り検査時には元請企業の下請企業への指導状況も確認する
指導に従わず未加入の企業は保険担当部局に通報する

2)公共工事における対策の実施

・国土交通省直轄工事における対策の実施
元請企業及び一時下請企業を社会保険加入企業に限定する
二次以下の下請企業についても未加入企業の通報、加入指導を実施する

3)下請指導ガイドラインの設定

下請企業は、施工体制台帳、再下請通知書、作業名簿等により下請企業や作業員の保険加入状況を確認、指導する

4)法定福利費の確保

法定福利費とは・・・福利厚生費のうち法律により資金の拠出が使用者に義務づけられている部分。健康保険、厚生年金保険料もこれに含まれる。

・直轄工事の予定価格への反映
事業主負担分及び本人負担分について、必要な法定福利費を予定額に反映する

・法定福利費を内訳明示した見積書の活用
各専門工事業団体毎に法定福利費を内訳明示した「標準見積書」を作成し、下請企業から元請企業への提出を開始する
建設業許可部局の立ち入り検査による見積書の活用を徹底する

 

今後の取り組み

1)社会保険の加入に向けた対策の強化

・保険加入について元請企業の下請企業に対する指導責任の強化の検討
・直轄工事における未加入企業の排除(二次下請以下の対策を検討)
・建設業者等企業情報検索システムにおける未加入業者の可視化

遅くとも平成29年度以降は
①未加入企業を下請企業に選定しない
②適切な保険に未加入の作業員は特段の理由がない場合に限り現場入場を認めないとの取扱いとすべき
とされています。
企業単位では許可業者の加入率100%、労働者単位では90%の加入状況を目指しています。

2)社会保険加入を怠ると

社会保険に加入させる義務があるにもかかわらず、加入義務を怠ると次のような事が考えられます。

①建設業許可が取得できない
②元請から仕事が受注できない
③公共工事が受注できない
④不適格業者として企業名が公表される
⑤2年間の社会保険料を遡って支払うよう支払命令がくる
⑥保険料滞納により差し押さえられる
このような処分をうける可能性があるため、加入義務がある場合は適切な保険に加入しなければなりません。

 

まとめ

社会保険制度により、病気や怪我をした時必要な保証を受けることができます。また、病気や怪我で働けなくなった場合、高齢化により働けなくなった時に、生活のための給付金や年金を受け取ることができます。
さらに、失業して収入が得られなくなった時には、一定の期間失業給付を受けることができます。

雇用する側も、優秀な人材が病気や怪我で働けなくなった時、社会保険に加入していれば必要な保障を受けることができ職場に復帰させることができます。また、社会保険に加入している安心できる企業として、若い人材を集めることもできます。

メリットもあるけれど、社会保険に加入すると保険料の負担をしなければならない、といった問題がでてきます。
日本の多くの企業は中小企業であり、保険料の支払いは経営の大きな負担となるはずです。
日本の建設業を支える多くの中小企業が、保険料を支払い適切な保険に加入できるよう、元請業者が法定福利費を考慮した発注ができるよう政府が体制を整えることも大切なように思います。