従来は客にダンスをさせる営業は風俗営業とされており、原則として深夜において営業してはならないこととされていました。
しかし、近年、国民生活の多様化がすすんだことやダンスに対する国民の意識が変化してきたことなどを踏まえ、平成27年、風営法の一部が改正され、新たに特定遊興飲食店営業が設けられました。
特定遊興飲食店とは、ナイトクラブその他施設を設けて客に遊興をさせ、かつ、客に飲食をさせる営業(客に酒類を提供して営むものに限る)で、午前6時後翌日の午前0時前の時間においてのみ営業するもの(風俗営業に該当しないもの)以外のものをいいます。
このように、深夜に客に酒類を提供し、客に遊興をさせる営業は「特定遊興飲食店営業」として公安委員会の許可を受ける必要があります。
「遊興をさせる」とは
「遊興をさせる」とは、文字通り遊び興じさせることですが、特定遊興飲食店営業として規制対象となるのは、営業者側の積極的な行為によって客に遊び興じさせる場合です。
客に遊興をさせるためのサービスとしては、主としてショーや演奏の類を客に見聴きさせる鑑賞型のサービスと、客に遊戯、ゲーム等を行わせる参加型のサービスが考えられます。
鑑賞型のサービスについては、ショー等を鑑賞するよう客に勧める行為、実演者が客の反応に対応し得る状態で演奏・演技を行う行為等は、積極的な行為にあたります。これに対して、単にテレビの映像や録音された音楽を流すような場合は、積極的な行為には当たりません。
参加型のサービスについては、遊戯等を行うよう客に勧める行為、遊戯等を盛り上げるための言動や演出を行う行為等は積極的な行為に当たります。これに対して、客が自ら遊戯を希望した場合に限ってこれを行わせるとともに、客の遊戯に対して営業側が何ら反応を行わないような場合は、積極的な行為には当たりません。
具体的には次のような行為が「客に遊興をさせる」ことに当たります。
①不特定の客にショー、ダンス、演芸その他の興業等をみせる行為
②不特定の客に歌手がその場で歌う歌、バンドの生演奏等を聴かせる行為
③客にダンスをさせる場所を設けるとともに、音楽や照明の演出等を行い、不特定の客にダンスをさせる行為
④のど自慢大会等の遊戯、ゲーム、競技等に不特定の客を参加させる行為
⑤カラオケ装置を設けるとともに、不特定の客に歌うことを勧奨し、不特定の客の歌に合わせて証明の演出、合いの手等を行い、又は不特定の客の歌を褒めはやす行為
⑥バー等でスポーツ等の映像を不特定の客に見せるとともに、客に呼びかけて応援等に参加させる行為
これに対して、次に挙げる行為で上記の①~⑥の行為に該当しないものは「客に遊興させる」ことには当たりません。
①いわゆるカラオケボックスで不特定の客にカラオケ装置を使用させる行為
②カラオケ装置を設けるとともに、不特定の客が自分から歌うことを要望した場合に、マイクや歌詞カードを手渡し、又はカラオケ装置を作動させる行為
③いわゆるガールズバー、メイドカフェ等で、客にショーを見せたりゲーム大会に客を参加させたりせずに、単に飲食物の提供のみを行う行為
④ボーリングやビリヤードの設備を設けてこれを不特定の客に自由に使用させる行為
⑤バー等でスポーツ等の映像を単に不特定の客に見せる行為(客自身が応援等を行う場合を含む)
「営業」とは
「営業」とは、財産上の利益を得る目的をもって、同種の行為を反復継続して行うことを指します。営業としての継続性及び営利性がない場合は該当しません。
例えば、結婚式の二次会として、新郎新婦の友人が飲食店営業の営業所を借りて主催する祝賀パーティーは、一般的には営利性がなく、営業にはあたりません。
また、スポーツ等の映像を不特定の客に見せる深夜酒類提供飲食店営業のバーにおいて、平素は客に遊興をさせていないものの、特に人々の関心の高い試合等が行われるときに、反復継続の意思を持たずに短時間に限って深夜に客に遊興をさせたような場合は特定遊興飲食店営業としての継続性は認められません。
短期間の催しについては、2晩以上にわたって行われるものは、継続性が認められます。これに対し、繰り返し開催される催し(1回につき1晩のみ開催されるものに限ります。)については、引き続き6月以上開催されない場合は、継続性が認められず、営業には当たりません。
「設備を設けて」とは
「設備を設けて」とは客に遊興と飲食をさせる物的施設及び備品を設けていることをさします。
客に遊興をさせる客室と飲食をさせる客室が別にあり、同一施設内で営業されている場合、例えば次のいずれかに該当するような時は一般的には設備を設けて客に遊興と飲食をさせていることになります。
①2つの客室の料金を一括して営業者に支払うこととされている場合(食券付きの入場券を販売する場合や、入場料を支払えば飲食物の一部又は全部が無料になる場合等を含む。)
②客が飲食物の精算をせずに遊興の客室へ移動できる場合
③客が遊興料金の精算をせずに飲食の客室へ移動できる場合
④飲食物を遊興の客室へ持ち込みができる場合
⑤飲食物を提供する客室で別室のショー、音楽等を鑑賞できる場合
例えば、映画館、寄席、歌舞伎やクラシック音楽のための劇場等のように、専ら、興行を鑑賞させる目的で客から入場料を徴収することにより営まれる興行場営業であって、興行の鑑賞のための席において客の大半に常態として飲食をさせることを想定していないものについては、飲食店営業の営業所とはされていないことが一般的です。その場合、客が席に飲食物を持ち込んで飲食をしたとしても、その席は、一般には飲食をさせる設備にはあたりません。(なお、単に映画をみせる行為は「遊興をさせること」には当たりません)
また、例えば短期間催しで、客にショー、音楽等を鑑賞させる場所と客に飲食させる場所を明確に区分しているような場合は、一般的には設備を設けて客に遊興と飲食をさせていることにはあたりません。
「酒類を提供する」とは
「酒類を提供する」とは、酒類を飲用に適する状態に置くことをいい、営業者がこれを客に販売したり、贈与したりする場合に限らず、客が持参し、又はボトルキープの対象となっている酒類につき、燗をしたり、グラス等の器具、氷、水割り用の水等を提供したりする行為は「酒類を提供する」に当たります。
まとめ
このように、改正風営法で新たに設けられた特定遊興飲食店営業は、風俗営業と異なり深夜0時を過ぎても営業可能なため、魅力的ではありますが、この特定遊興飲食店営業にあたるかの判断がとても難しいです。
また、今まで風俗営業として公安委員会の許可が必要であったダンス系の営業が、対象外となり、公安委員会の許可が不要となるケースもあります。
開始したい営業がどれにあたるのか、正しく判断する必要がありますね。